河北新報「2021新春トップインタビュー」より

河北新報では今年も1月3日から6日の4日間の朝刊に、地元企業のトップや大手企業の仙台支社長のインタビューが掲載されました。この企画は今春が記念すべき10回目で過去最多となる220名のトップが登場されたそうです。その中には在仙民放テレビ4社の社長もあります。たぶん今春からだと思いますが、J:COM仙台も登場します(CAT-Vは登場しません)。
今年も私が興味を持ったところをかいつまんで取り上げます。(インタビューの全文は1月7日より河北新報のwebサイトから読むことができる予定です。)

(50音順)

防災への取り組みは大きく2つ。(1)災害放送。コミュニティチャンネル「J:COMチャンネル」で地域の魅力を放送しているが、災害発生時には、避難所や給水場所、休校情報などの生活情報をいち早くお届けする。震災時は混乱の中で、住民目線のきめ細かな情報を提供し、高い評価をいただいた。(2)啓蒙活動。防災に役立つ番組「J:COM防災ナビっ!」のほか、記憶を風化させないこと、復興の想いを被災した方々と共有するすることを目的に2012年からオリジナルの特番「震災アーカイブ」を放送している。
自治体との連携。仙台局が仙台市、富谷市と防災協定を結んでいるほか、J:COMグループでは全国207の自治体と協定を結んでいる。
J:COMモバイル」の新プランではケーブルテレビのような提供エリアの制限がない。電気、電話、保険など生活を取り巻くサービスの拡充に力を入れていく。
(※J:COM仙台(旧・キャベツ)はジュピターテレコムグループの「株式会社ジェイコム埼玉・東日本」(さいたま市浦和区)の仙台局。トップの稲吉正美氏の肩書は「J:COM仙台 局長」である。)

コロナの影響を受け経営面で苦しかったが、感染防止に細心の注意を払い、制作スタッフのチーム分けにも苦労した。一方で、番組へのリモート出演が常態化し、それが視聴者に受け入れられたのも大きな変化だった。これまでは東京から専門家を呼ぼうにも難しかったが今ではインターネットを使って出演してもらうことが容易になった。ネット出演のメリットは今後も生かしていきたい。地方からネットで首都圏などに情報を発信することも可能になった。問題はコロナ禍を経た消費者、視聴者の価値観がどう変化するか。これを番組制作にどのような形で結び付けるか、新しい世代のスタッフとともに考えていきたい。
(震災10年に関して)報道する上で復興の点検が必要(ソフト面の整備、復興税の使い道など)。大事なのは「伝承」。震災10年というのは震災を永遠に忘れないための新たなスタートとも言える。伝承へ向け、われわれは報道し続ける覚悟だ。
(※今年の稲木社長の写真は副調整室にて、背景のモニターには夕方のニュース「イット」の文字が並ぶ。)

ドラマ「小さな神たちの祭り」。国際エミー賞受賞は逃したが、いわば世界のテレビ番組のオリンピックのファイナリストになったのだからそれ自体が大きな名誉、自信もついた。(※テレビムービー・ミニシリーズ部門の最終選考4作品にノミネートされた。) 1月中旬に発表されるアジア・テレビジョン・アワードでも最終選考に残っている。震災の現状を世界中の方々に理解してもらい、われわれの取り組みが外国の審査員にも評価されたのはとてもうれしい。
震災10年は通過点にすぎないが一つの節目であることも確か。さまざまな番組を通して、ドラマと同様、復興の現状と被災者の心の内なる部分を伝えていきたい。
新社屋(昨年6月落成)。震災級の災害に見舞われても放送を続けられるよう、安全性の高い建物にした。併せて(1)1チャンネルの「1」を組み込んだロゴ(2)スローガン「はやく、ただしく、おもしろく」(3)「杜の中の放送局」にふさわしい新キャラクター「モリーノ」を誕生させた。新生tbcとして気持ちも新たに、これまで以上に優れたコンテンツを発信していく。
(※見出しは「tbc東北放送」だが、「IBC岩手放送」みたいにアルファベットが社名に入っているわけでは無い。)

あすと長町に建設中の新社屋が完成間近。2月初めには建物が出来上がり、10月のオープンに向け設備の搬入を始める。斬新なデザインで長町のランドマークになると自負している。1階の多目的ホールは市民にも広く開放する。マンション建設が進み人口も急増しているあすと長町のように、地域と共に成長する放送局でありたい。新社屋での放送開始に合わせて、ロゴも一新する。お楽しみに。
開局45周年(昨年10月)でさまざまなイベントや特番を企画したが、コロナで取りやめにせざるを得なかったのは残念。コロナの影響は当然、経営面にも及び、上期はCMが激減したが、秋に入ってだいぶ持ち直してきた。この間、コロナに関する地域のニュースを速報としてインターネットに積極的に流したところ、大きな反響があった。身近な情報が求められていることが改めて分かった。
(震災10年に関して)例年以上の特集や番組を準備中。未曾有の犠牲を考えれば、風化などと言わせたくない。災害の伝承や復興の矛盾など、震災の今を追い続ける。
(※新社屋の外観パース図はこちら。屋上の鉄塔のひねりを加えたデザインや建物の外側に取り付けたガラス張りの階段が斬新。)

コロナでは広告収入が急減したというマイナス面もあるが、ステイホームが定着し、テレビを見ている方々が急増したのも見逃せない。ある調査によると、コロナに関する情報源として挙げられた1位は民放のニュース。テレビが想像以上に信頼されていることを認識するとともに、社会的な責任の重さを改めて痛感した。命に関わるニュースだけにインターネットの情報では不安だということなのだろう。報道機関としてこうした期待にどう応えていくか、原点に返って取り組んでいく覚悟だ。
開局50周年(昨年10月)。コロナ禍のために中止した企画も多くあったが、この機会を捉え「こどもみらいテレビ」という企画を立ち上げた。子どもたちの夢をかなえるお手伝いをするもので、昨年12月には特番を放送した。今後も年1回「こどもみらいテレビウィーク」を設け、企画を続けていきたい。
震災から10年も経つのに現在進行形の課題があまりにも多いと感じる。次の災害がやって来た時、命を犠牲にしないで済むにはどうしたらいいか。東北だけでなく日本全体に視野を広げ、過去の大災害の教訓も掘り起こしながら、特番の取材を進めている。


ミヤギテレビの大沼社長のインタビューで触れられている調査とは総務省の調査
総務省|「新型コロナウイルス感染症に関する情報流通調査 報告書」
を指しているのではないかと思われます。
これとは別の野村総合研究所の調査
テレビ放送の役割変化:情報源としての位置づけ低下と家族メディアとしての回帰 ~新型コロナウイルス感染拡大による消費者の行動変容がICTメディア・サービス産業に及ぼすインパクトと対応策(2)放送・メディア~
でも民放テレビから得る情報がトップになっています(この調査は2011年との比較になっていて、2011年の震災時の情報源は圧倒的にNHKがトップなのだけど、2020年のコロナの情報源はNHKが大幅に減り、2011年とあまり変化がなかった民放がトップになっている)。
なお、野村総研は2020年4月に調査し5月に公表していて、総務省は2020年5月に調査し6月に公表しています。
NHK放送文化研究所でもこの総務省の調査を資料の一つとしてコロナ禍における地方ローカル局について論じています。
#260 これからの"放送"はどこに向かうのか? 民放ローカル局 | 文研ブログ|NHKブログ
その筆者は地方ローカル局は存在感を発揮しており経営基盤の強化を(総務省の検討会とは別に)考えるべきとしています。
民放各局のトップはもちろんそういったことは分かっており、その上で先の見えない時代の舵取りをしているようです。

昨年拙blogに問い合わせがあったのですが、NHK仙台放送局のインタビューはありません(エフエム仙台もありません)。ただ、東邦銀行の頭取は昨年の朝ドラ「エール」に言及(主人公のモチーフとなった古関裕而氏は前身となる銀行に勤務していたことがある)、七十七銀行の頭取は次の大河ドラマ「青天を衝け」に言及(主人公の渋沢栄一が設立に関わった)、南三陸ホテル観洋は副社長が次の朝ドラ「おかえりモネ」に言及(物語の舞台が気仙沼市登米市)、とNHKのドラマが東北に影響を与えていることが感じられます。