帝釈天

在仙民放各社の2021年度決算については在仙放送局の決算・人事など 2022 - みむめもーどで紹介したのだけど、各社の株主総会が終われば、東北放送はEDINETに有価証券報告書を公開し、宮城テレビ放送東日本放送は決算公告を官報に掲載し、仙台放送は自社webサイトの決算公告のページに貸借対照表当期純利益の額を公表します(エフエム仙台は関知していません、ごめんなさい)。
東北放送有価証券報告書についてはあとで読むとして、ここでは宮城テレビ放送東日本放送の決算公告に注目してみようと思います。というのも、東日本放送太白区あすと長町に新社屋を建て、青葉区双葉ケ丘の旧社屋と土地は学校法人三島学園に売却しました。宮城テレビ放送泉区泉中央に土地を買い、将来の移転先かと噂されています。当然いずれも億単位の売買になることでしょうから、それは貸借対照表の数値に現れてくるはずです。
官報は最新のもの30日分はインターネットで閲覧が可能です。東日本放送は6月23日(号外第135号)の121ページに貸借対照表損益計算書のそれぞれの要旨を掲載しています。宮城テレビ放送は6月24日(号外第136号)の131ページに貸借対照表の要旨を掲載しています。過去のものについては官報そのもので探すと大変ですが、決算公告だけを抜き出しているwebサイトがあるのでググって探すことができます。
貸借対照表は会社の資産と負債を左右に並べて会社の財政状況を一覧できるようにしたもの、という説明でいいでしょうか。資産と言ってまず思いつくものは土地と建物です。もちろん手持ちの現金や有価証券、権利なども含まれます。
資産は流動資産と固定資産に大別できますが、宮城テレビ放送では固定資産を有形固定資産、無形固定資産、投資その他の資産の3つに分けて公表しています。

第51期(前々期) 第52期(前期) 第53期(当期)
流動資産 6,472,874 6,625,994 6,482,770
固定資産 11,694,333 11,887,042 12,424,962
 有形固定資産 3,820,532 3,370,132 5,603,935
 無形固定資産 60,100 95,394 96,224
 投資その他の資産 7,813,701 8,421,516 6,724,803
資産合計 18,167,207 18,513,036 18,907,732
流動負債 969,796 1,107,678 1,163,020
固定負債 229,496 210,372 210,269
負債合計 1,199,292 1,318,050 1,373,289

金額の単位は千円です。当期と前期を比べると有形固定資産が22億円ほど増えていて投資その他の資産が17億円近く減っているのが大きな変化です。流動負債は増えてはいますがこれらと比べれば大した増え方ではありません。長期の借金を意味する固定負債にはほぼ変化がありません。
ざっとググった感じだと泉中央駅付近の地価は1平米あたり36万円ほどのようで、取得した土地の面積は6100平米なので掛けるとほぼ22億円近くなります。今回の売却代金については公表されていないはずですが、数字が合うので特別高く売ったり安く売ったりということは無くおおよそこの近辺の金額なのではないでしょうか。今期の有形固定資産の増分は泉中央の土地の分と考えてよいでしょう。
その22億円を分割払いするとなれば固定負債の額に影響を与えるはずですが、ほぼ変化がありません。替わりに投資その他の資産が17億円近く減っているということから、手持ちの資産から支払ったと考えられます。
貸借対照表で資産の合計と負債の合計の差額に当たるものが純資産。ここには主に資本金と利益剰余金(これまでの利益の蓄積と考えていいかな)で構成されます。ここが減れば赤字決算だったことになりますが、ご存じの通り在仙民放でトップの収益を上げていますからここも増えています。開局以来50年現在地で引っ越さずに我慢してきている成果と考えることができるかもしれません。

次に東日本放送について見てみましょう。東日本放送は固定資産の内訳を示しておらず、金額の単位も百万円になっています。

第46期(前々期) 第47期(前期) 第48期(当期)
流動資産 5,854 4,930 5,255
固定資産 5,072 8,008 8,481
資産合計 10,927 12,938 13,736
流動負債 1,047 3,063 1,163
固定負債 429 377 4,037
負債合計 1,476 3,441 5,201

あすと長町の土地は2016年3月に日本通運から取得しています(再開発前に近所に倉庫を持っていたのでした)。もっと古い決算公告と比較すれば土地の金額が分かったかもしれません。当時の『SENDAI Watcher!』の記事では10億は下らないと推定されています。
前々期と前期を比較すると固定資産が30億円近く増えています。新局舎での業務は2021年9月にスタートしていますが竣工式を2021年2月に行っており、今期ではなく前期で新社屋の分の資産が計上されたのだと思います。
前期と当期を比較すると固定負債が36億円ほど増えています。新局舎の総工費、設備などの費用を合わせて30億円近くかかり、それをこれから何年か掛けて返済していくということになるのかと思われます。東北放送は26億1千万円を18年間の分割払い(有価証券報告書より)ですが、それよりも長期の分割ということになるのかもしれません。
旧社屋の土地建物を売ったら当期は固定資産が減るだろうと思ったのですが、4億円ほど増えています。別の資産があったのかな。なお、学校法人三島学園の『令和3年度 事業報告書(財務情報等含む)』(三島学園のwebサイトから読めます)を見てみると、IV.財務の概要のなかに『施設関係支出(土地、建物、構築物の支出)は135,980千円』という記述があり、この枠内に東日本放送旧局舎の土地建物の取得代金が含まれていることになります。また『有形固定資産うち、昨年度に比べ土地111,999 千円の増、建物は7,029 千円(当年度取得分と減価償却の差額)減少した』という記述もあります。新たに取得した土地は東日本放送の分だけと思われるのでその売買代金は1億1千万ほどと思われます。建物については既存の建物に関するものもあるでしょうから旧局舎そのものの金額は分かりません。築30年なのでそんなに高くは無いのかもしれません。

東日本放送貸借対照表だけでなく損益計算書も載っていますので、当期純利益だけでなく当期経常利益も知ることができます。

第46期(前々期) 第47期(前期) 第48期(当期)
売上高 6,911 5,760 6,332
売上原価 3,135 2,678 3,116
売上総利益 3,776 3,081 3,215
販売費および一般管理費 3,425 2,823 3,151
営業利益 351 258 63
営業外収益 26 26 15
営業外費用 4 10 48
経常利益 373 274 30
特別利益 41 - 13
特別損失 2 5 922
税引前当期純損益 412 268 ▲879
法人税・住人税及び事業税 121 61 1
法人税等調整額 16 154 0
当期純損益 274 52 ▲880

単位は百万円。なので四捨五入の関係で足し算引き算の結果が合って見えない場所があります。「-」は該当項目の記載がなかった。▲はマイナス。本稿では純損益と書いている欄ですが、プラスであれば当期純利益となるべき項目です。当期はマイナスのため当期純損失と表記が異なっています。
前期はコロナ禍のせいで収入支出とも額が少なくなったものの今期は回復しつつあることが分かります。しかし当期の営業利益は減益となり、営業外費用が増えたことから経常利益も減益となりました。営業外というのは引っ越し作業に伴うものという解釈でよいのかな。決算短信の記事を読み直してみましょう。

◆売上高9.9%増
 東日本放送仙台市) 売上高9.9%増の63億32百万円▽経常利益88.8%減の30百万円▽純損益52百万円の黒字から8億80百万円の赤字
 CM、イベント収入が前年より回復し増収を確保。新社屋移転に伴う減価償却費計上などで経常減益。旧社屋売却に伴い純損失を計上した。

今期の赤字の原因は9億22百万円という結構な額の特別損失です。本業で儲からなかったわけでは無く一時的な臨時の損失で、一般的にその理由は固定資産等処分損。今回だと旧社屋の土地建物の売却価額がその帳簿価額と譲渡経費の合計額を下回った場合の差額が計上されるという解釈で合ってますかね。たぶん旧社屋の土地を購入したのは失われた30年の前だから現在より地価が高かったかもしれないし、建物は当然に古くなれば価値が下がります。建てたときは何十億って掛けたことでしょうが売った時の値段は何億も掛かっていないはずです。
この損失は来年度以降で計上されることは無いので、今年並みの業績が上げられれば来年は赤字にはならないだろうと想像できます。