防災ラジオは無駄遣い?

12月10日のTBCテレビ「Nスタみやぎ」で防災ラジオに関するあまり芳しくない話題が特集されていました。録画しておいたので後日再生して見ると、拙blogが「はてなダイアリー」にあったころ、3年前に紹介した記事とほぼ同じ内容でした。言い換えれば、あれから3年経ったのに事態は解決されていないというお話です。

復興の現在地#215 災害時情報伝達…復興予算検証

東北放送のwebサイトのニュースページは基本的にストレートニュースで、ワイドニュースの特集コーナーは掲載されません。震災後随時放送されている「復興の現在地」もwebには上がりません。12月10日の放送分、およそ8分の特集コーナーの内容をかいつまんでおきます。

石巻市で市民に災害情報を伝える手段を広めようと始めた、ある事業の有効性が疑問視されている。
ということで小出悠貴記者のリポートVTR、回転。

石巻市小積浜、震災後に新しく建てた防災無線のスピーカー。
震災後石巻市は22億円かけて市内全域にデジタル防災行政無線を整備した。石巻市は2005年の合併後も防災行政無線をそれまでの旧市町ごとに運用していたので震災時に津波の情報を市内全域に統一的に周知できなかった。デジタル化で災害情報を迅速かつ統一的に伝えられるようになり、市民から歓迎されている。冒頭の小積浜の行政区長の声も。
一方、同じ災害時の情報伝達という目的でもその有効性が疑問視されている事業がある。
石巻市役所内の防災倉庫、段ボールの山。防災ラジオの在庫の一部。
震災でラジオが見直されたことから市は2014年、防災ラジオの販売事業を計画。震災復興基金1億5千万円を使って3万台作り、希望する市民に1台1000円で販売した。3万台作ってまだ1万4千台、段ボール1400箱分も余っている。
市の担当者もPR不足は認めている。市民の声を3つ、防災ラジオの実物を記者に見せられて見たことがあるかと聞かれ見たことが無いと言う女性。1億5千万円を使って3万台作ったと記者に言われて苦笑する男性、携帯電話でもいいのではと。無駄遣い、別のことに使ったほうがいいと語る女性たち。
記者にこの事業は成功だったといえるのかと問われ、市の担当者はまるっきり無駄遣いということではないと回答。担当者の発言のなかに「手軽にスマホで情報を得られる状況の変化」というものがあったので、スマホの世帯保有率のグラフを提示し(販売開始時点以降70%以上で推移している)スマホの普及を防災ラジオが余っている理由とするのは疑問だとレポートする記者。
会計検査院からの苦言(ここだけたぶん守屋アナのナレーション)『事業の効果が十分に発現していない』『防災情報の伝達体制の強化を図る目的が十分に達せられていない』
3万という数字は市の世帯数の半分にあたり、当時市民にアンケートを取ってはじき出した台数。東北放送はその根拠となったアンケート結果について情報公開請求したが保存期間が過ぎており既にアンケートは廃棄されていた(アンケートは平成26年に取ったものらしい)。
専門家の声『復興予算の検証は必要だが、その主体が誰になるかは難しい。(自治体は)「私たちは失敗しました」という評価は自らは出せない。』
石巻市長の記者会見(11月9日)『被害の最小化のためには様々な伝達経路の確保が必要』『震災後の混乱の中で正確な数の把握は難しかった』
記者リポートの締め。伝達手段の多様化は防災面で重要。一方でその整備に税金が使われている以上、市は自ら事業の見通しが適切だったのか検証する必要がある。

スタジオに戻って後藤アナから、ラジオの耐用年数が5年で新品として販売できる期間に限りがあることから、今年3月に販売をやめ転入者に無償配布する方針に変更したことが紹介されました。
復興予算の原資はわたしたちの支払っている税金なので、市には謙虚に今後に向けて事業を検証する姿勢も求められている、と増子アナが締めて特集は終わりました。

3年前の拙blogより

拙blogが「はてなダイアリー」にあった2017年11月15日付のエントリ『ここ数日の河北新報に出ていたコミュニティFMに関する記事 』でコミュニティFMに関する記事を3つ取り上げていました。その時のラジオ石巻に関する部分を再掲します。

はえっ、なんで? と思ったのですが、河北の記事によると『2015年3月に3万台を購入して販売を始めたが、いまだに約1万7100台が売れ残っているためだ。』ということで、想定したほど売れなかったようです。3万台というのは石巻市の市内の全世帯の約半数に当たるそうなのでそんなに多すぎる数ではないとは思うのですが、『市役所などで販売会を開いても購入者は伸び悩み、昨年4月には会計検査院が「事業効果が十分に表れていない」と指摘。同8月に販売価格を見直したが、在庫がなかなか減らないのが現状だ。』といいます。調べてみたら当初は「戸別受信機を設置していない世帯」(防災行政無線の受信機かな?)は1台1000円でしたが、「戸別受信機を設置している世帯」や事業所・事務所、2台目以降の購入の場合は1台5000円で売っていたようです。
現在は一律1台1000円だそうです。11月4日と5日に『初めてイオンモール石巻で販売会を実施。のぼりを立てて客を呼び込み、2日間で131台を売った。』そうで、『担当者は「単なるラジオと思っている市民もいたが、機能を丁寧に説明すれば分かってくれた。もっと周知する必要がある」と手応えを話す。』といいます。
しかし、『ラジオの耐用年数は5年とされ、新品として売れる時期にも限りがある。』のだそうです。『市は来年3月までをめどに販売を強化し、市内のイベントなどで積極的にPRする方針。』とのことで、売れるといいですね。
記事についているラジオの写真を見るとLecuoというブランドのようで、ググるCSR社から出ているDPR-3という機種のようです。ラジオ石巻1波しか入らないタイプです。ラジオ石巻は今年3月15日付で中継局が3局増設され、たぶん市内全域で受信できるようになっているはずです(私はまだ新しい中継局のエリアに受信しに行っていないので未確認なのですが)。既存の3中継局も今回の3中継局も石巻市が免許人となっている受信障害対策中継局なので、市の予算で建てているはずです。聴いてもらうための努力はしているようです。

以上です。
(※3年前に書いたものなので、上記の文中の今年とは2017年を指します。肝心の河北の記事はリンク切れになっています。)

今回の感想とか

3年前は1万7千台余っていて現在は1万4千台余っている、ということは3年で3千台しか捌けなかったことになります。なので石巻市は有効な対策はとれなかったという結論にならざるを得ません。
我が名取市も1台1000円で貸与しています(名取市のは普通のAMFMラジオも聞けるタイプです)が、うちの町内会は町内会の防災組織の予算を使って助成し実質無料配布という形をとりました。そうでもしないと防災ラジオは普及しないと私は思います。普通のラジオは安ければ1000円で買えるわけで、防災無線も聞けますよというのがどれだけ市民の役に立つかというのは配ってもしもの時に聴いてもらうことでしか理解してもらえないんじゃないのかな。
耐用年数を過ぎちゃったというのは賞味期限が過ぎた商品と同じレベルなのでしょうから倉庫にしまっておいてもタダでばらまいても同じことだと思います。次に大きな災害が起きた時に避難所に配るつもりというのならそれもありかと思いますが。
なんでそんな無駄遣いをした、誰が悪い、という話は在庫を捌いたあとでゆっくりやってくれればよいと思います。責任を取るべき人がいるとして退職した後になるかもしれませんが。それで「そもそも防災ラジオなんて要らなかったんだ」という結論が出るのならそれはそれでよいと思います。よその町の人たちにとって最良の結果は税金返せというところかと思われますが、現実には将来的に別の補助金が減らされる、増税になるという形で負担することになるのでしょう。それはそれとして、何で防災ラジオってあんなに原価が高いんでしょうね(石巻のような地元cfm1局と防災無線受信のみの型は5千円、名取のようにふつうのAMFMラジオに防災無線受信機能が付く型は1万円以上する、住民負担の千円との差額は震災復興の補助金、すなわち税金が充てられる)。

補足とか

石巻市のデジタル防災行政無線システムについては富士通ゼネラルのサイトに紹介があります。
石巻市様で当社製最新式デジタル防災行政無線システムの運用開始 - 富士通ゼネラル JP
この時設置された6中継局のうち3局(大草山、硯上山、欠山)には石巻市がラジオ石巻の送信アンテナをつけているはずです(受信障害対策中継放送)。
で、防災行政無線ですが、ググって見つけた石巻日々新聞の2019年6月20日付の記事によると、旧市町で運用の仕方が異なっているようです。
石巻市防災行政無線 地域で異なる運用に疑問 弾力的な活用検討へ 旧市 災害情報限定 旧町 その他も周知 - 石巻日日新聞
合併前の旧町では町単位で総合支所からのお知らせを流しているようです。対照的に旧市内では主に全市に伝達する災害時の情報に限定しているのだそうです。とは言え旧市も広いので住宅地と農村、漁村部とで放送を細分化できないかということのようです。

ラジオ石巻は平日だと朝8時から夜8時は自社番組中心で朝、午前、午後、夕方に生ワイド番組があります。夜8時から朝8時はJ-WAVEの再送信が中心の編成をしています。土日はJ-WAVEの再送信が多いですが自社番組もあり、地域密着はできているのではないかと見受けられます。1997年5月に開局、震災では局舎が被災し市役所に臨時のスタジオを設置し臨時災害放送局として活動しました。2015年3月に臨時災害放送局からコミュニティFMに戻る際に前述の3つの受信障害対策中継局を市が設置、2017年3月にさらに3つの受信障害対策中継局を市が設置していますので、たぶん市内全域をカバーできているかと思われます。

「Nスタみやぎ」で紹介された会計検査院の苦言はこちら。平成28年4月6日付の追加報告とのことです。
第2 検査の結果 | 東日本大震災からの復興等に対する事業の実施状況等に関する会計検査の結果について | 検査要請 | 会計検査院
本件とは無関係ですが、ググっていたらこんなラジオに関する税金の無駄遣いの記事が引っ掛かってきました。余談です。
ODAの防災放送一部不備 ソロモン、5億円 - 産経ニュース

防災ラジオを無償化することになった経緯については、石巻市のサイト内をググっていたらこんなpdfファイルが引っ掛かったのでリンクしておきます。
https://www.city.ishinomaki.lg.jp/cont/10181000/0070/8061/20/20_shiryou01-1.pdf 防災ラジオの無償配布等について その1(PDF)
耐用年数経過後に販売を継続するためには、改めて検査を行う必要があり、追加費用として約500万円が発生する見込み、とのことです。

伝達手段の多様化について、2か月前の河北新報にこんな記事が出ていたようです。気が付かなかった。
石巻市、災害情報をヤフーで配信開始 効率的な伝達期待 (10月23日)

 市はこれまで、防災行政無線や市災害メール、無料通信アプリLINE(ライン)で情報発信していた。現在の登録者数は災害メールが約3000人、ラインは約7000人なのに対し、ヤフーで石巻市を地域登録している利用者は約3万9000人おり、効率的な情報伝達が期待できる。

ということでYahoo!は有力な情報伝達手段のようです。ちなみに石巻市の人口はおよそ14万人、世帯数はおよそ3万世帯です(今年11月末現在)。