黒ビルに白羽の矢? 移転望む声じわり

アンガーマネジメントという考え方があって、怒りを覚えたときは6つ数えると良いと言われます。なので日付を6つ数えてみたのだけど、やはりこの記事には怒りを覚えます。何て身勝手なんだと。
河北新報1月16日付朝刊の1面トップに載った記事です。新聞記者が書いてはいけないと言われる“ナリチュー”記事、記者が第三者的に「成り行きが注目されます」と言うのではなく、『市民らは成り行きを見守っている』と仙台市民が成り行きを注目しているのだとして伝えています。その注目の先が黒ビルと呼ばれる古いビルです。そのビルが消えてなくなって欲しいと言う声が上がっているのだそうです。
仙台市役所建て替え計画、「黒ビル」に注目 移転望む声じわり 活気を定禅寺通にも | 河北新報オンラインニュース
紙面とwebでは見出しが異なっています。
記事に載っているのは二人の意見です。

 青葉区で昨年11月にあった市役所建て替えを市民が語り合うイベントで、参加した男性が「ビルがあることがつくづく残念だなと思う」と指摘した。
 (中略:ビルと勾当台公園市民広場の整備の経緯を紹介したうえで)
 男性は「その時に移転し、定禅寺通と市民広場がつながっていたら空間の在り方は大きく変わっていただろう」と持論を展開した。

(たぶんこのイベントではないかと思います。市役所本庁舎建て替えシンポジウム「仙台ラウンドテーブル 市役所(シティホール)を考える」を開催します|仙台市

 市議会でも話題に上る。昨年11月の常任委員会では、ベテラン議員が「議会の場で人の財産をとやかく言うのはどうかと思うが」と前置きし「視界を遮っている。色といい、大きさといい何とかならないか」と発言。市の担当者は「人様のものなので解決できるものではない」と答えるのが精いっぱいだった。

その市議はどこのどいつだと思いましたが、仙台市議会のwebに公開されている議事録は昨年9月までの分しかなく、記事にある11月の常任委員会とやらの詳細は確認できません。常任委員会は5つあるようですがどの委員会なのかもこの記事だけでは判断できません。
黒ビルというのは仙台市役所の南側に建つ真っ黒い色のビルです。南側と言っても間には勾当台公園市民広場があります。北から市庁舎、噴水、市道、市民広場、黒ビルの順に並んでいるのです。記事によれば、『ビルは敷地約1420平方メートル、地上10階、地下1階。所有する第一生命保険(東京)の仙台総合支社など12社がテナント入居する』。そのテナントの中には東北放送分室(営業部・事業部)があります。
(余談ですが…東北放送奥山恵美子前市長の時代に勾当台公園市民広場の命名権を取得しようとしたことがありました。勾当台公園TBC市民広場の命名権問題に一言 - みむめもーど で私は命名権に反対する意見を書いています。もし取得できていれば市民広場は東北放送の庭になっていたかもしれません。)
先ほど記事を引用するうえで中略とした部分。これが黒ビル撤去を求める根拠になっています。

 ビルとは1970年完成の仙台第一生命ビル。当時は勾当台通と東二番丁通がクランク状で、ビルは勾当台通と定禅寺通角にあった。86年に勾当台通と東二番丁通が直線化。市民広場が整備され、ビルは勾当台公園に面するようになった。

私も言われてあぁそうだったなと思い出すくらいで、古い話になりました。東二番丁通りと県庁と市役所の間の勾当台通りとは一直線では無かったのです。南北方向には直進なのに少し曲がって進むというヘンな十字路でした。仙台市地下鉄を建設するタイミングで線形改良の工事をしました。勾当台公園の県庁側、TBC夏まつりで言うところのEASTラジオステーション側が少し削られてその反対に道路ではなくなった部分、市民広場の南側のスペース(TBC夏まつりで言うところのSOUTHステージ)ができたのです。
Wikipediaの「勾当台公園」のページに昔の写真が載っています。黒ビルは定禅寺通りと勾当台通の角にあることが分かります。黒ビルの影の先にある駐車場は現在地下化され地上は勾当台公園市民広場、TBC夏まつりで言うところのメインステージ、WESTステージになっています。表小路という狭い道路を一本挟んでその北側に仙台市役所があります(住居表示前の仙台市役所の住所は仙台市表小路8番地)。
仙台市役所の現庁舎は1965年竣工だそうで黒ビルより5歳年上。先の震災を受けて建物へのダメージは進んでいるはずだし建て替えようというのはやむを得ない話です。とはいえ県庁の隣という今以上に便利な場所がそうそうあるわけも無いので現地建て替えということになります。
その建て替え案は1月18日付朝刊の県内版に出ています。
<仙台市役所>本庁舎建て替え5案を提示 整備は1棟か2棟 | 河北新報オンラインニュース
まだ案なので5案出ています。現地建て替えですから当然現在の市庁舎前の広場が小さくなることになります。記事にも

 1棟整備の場合、高層部はいずれも19階で高さ80メートル。敷地の東側、西側、中央に配置する3案を示した。屋外広場と勾当台公園市民広場が一体利用できるが、庁舎の位置によって市民広場に圧迫感を与える可能性がある。
 2棟整備は19階(80メートル)と11階(45メートル)、13階2棟(共に55メートル)を建てる2案。19階と11階の整備案は現在の本庁舎を解体せずに新庁舎を建設できる半面、庁舎南側の屋外広場が狭くなる課題がある。

どうやら南側を広く取りたいという意向が感じられます。
私が腹を立てている元の記事に戻ります。ナリチューと結ばれている前文はこんな文章です。

 市役所本庁舎の建て替え議論が進む仙台市で、青葉区勾当台公園市民広場に面する黒いビルに市民の注目が集まっている。定禅寺通と一体的ににぎわいを創出する上で、本庁舎との間に位置するビルの移転を求める声が上がる。ビルは企業が所有し、現時点で移転の計画はないが、建設から約50年になるため市民らは成り行きを見守っている。

2つの記事を合わせると、市役所前の広場は市役所から定禅寺通りまで続いていることが理想、という考えをもって新しい地図を描こうとしている人がいるらしいことが伺えます。
記事は2人の意見の後にこう続きます。

 市は都市ブランドの柱と位置付ける定禅寺通周辺の活性化を図っている。年間を通して各種イベントがある市民広場から、にぎわいを商業エリアの定禅寺通に広げる方法が課題の一つになっている。
 老朽化で建て替える市役所本庁舎は最短で2026年度に使用が始まる。昨年10月に官民組織の「定禅寺通活性化検討会」が発足し、通りの魅力向上や周辺のにぎわいづくりを話し合っている。市の担当者は「第一生命は周辺の活性化に向けた機運づくりに前向きだ。一緒に考えたい」と話す。

要するに仙台市も黒ビルになくなって欲しいのだろう。立ち退いてくれと正式に頼めば立ち退いてくれると思っているのではないか。だいたい河北新報河北新報で、人様の建物に消えてなくればいい(「何とかならないか」とはそういう意味でなければ使わない言葉のはずです)という人間に対して「人様のものなので解決できるものではない」と答えるのは当然のことだろうに『精いっぱいだった』と表現するのはどういうことなのだろう。よっぽど市議がすごんで見せたのか(だったらもはや市議ではなくヤカラだろう)もっと的確に市議の暴論を否定する返事ができたはずだということか。
何処の町でも中心部に賑わいが欲しいと思っているわけですが、仙台市では現在の勾当台公園市民広場だけでは手狭で黒ビルも無くなって欲しい、そうすれば市役所から定禅寺通りまで全部ひとつながりの広場としてイベントができるぞ、というお考えの方がいらっしゃるようです。どれだけ大掛かりな行事をお考えなのでしょう。
市庁舎建て替え案が載っている1月18日付朝刊の1面トップには仙台市中心部にも震災のメモリアル拠点を整備するための検討委員会を設置するという記事が出ています。
<震災メモリアル拠点>基本構想を20年度に策定 仙台市、検討委設置へ | 河北新報オンラインニュース
仙台市中心部でなければ仙台市地下鉄東西線が開通した時に東の終点荒井駅に併設する形で設置されています。荒井には被災者のための復興公営住宅が建っているというのも荒井に建てた理由のひとつなのかもしれません。私は阪神大震災と違って街中は被災してないも同然なんだから街中には要らんだろと思いますが、中心部にも建てたいというのはお客さんに来てほしいという考えがあるのでしょう。それが駅前なのか青葉山なのか市役所なのかは分かりませんが。
市役所にはこれまた老朽化している市民会館(1973年11月完成)やとっくの昔にあすと長町にできているはずの音楽ホール(どこにできるか未定)を市役所と合築したらということを言う人もいるなど、市役所とは行政を執行するオフィスビルではなく賑わいの拠点であると再定義しようとする向きがあるのかもしれません。
ただそのために、あのビル邪魔、消えろと言えてしまう神経に驚愕するし、それを地元紙の一面トップに掲げるということは東北の発展を掲げる地元紙として推進すべきだと考えているのでしょう(反対なら報道しない自由があるのだから黙殺すればよいだけのことですから)。
私はこのブログのコメント欄に関して「あなたには好き勝手言う自由があり、私に聞かれたことに答える義務はない」と日頃から書いています。ただそれは広いインターネットの世界の片隅にある一個人ブログだから、言ったところでこんなブログに発信力なんか無いですから。発信力があるのなら7年前に拙blogのコメント欄のふざけた書き込みのせいで1人のフリーアナウンサーが社会的に抹殺されていたはずですので(そのコメントが女性蔑視だとか人権軽視だとかいうのはまた別のお話)。
そんな拙blogレベルの暴論が仙台市議会で発言され河北新報の一面を飾ることに、すごい世の中になったと思うのです。
なお、記事の末尾に第一生命側のコメントがありまして

 第一生命は「現時点で移転の予定はない」と回答。管理する第一ビルディング(東京)も「築年数から移転や建て替えは検討事項だが、具体の計画はない」(東北事業所)と言う。

市役所が実際に建て替えられ新しくなるのは2026年度だそうですから移転や建て替えの予定はまだ立てなくてもよいでしょうね。